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ベニトンボ,アオビタイトンボおよびタイワンウチワヤンマの分布北上
渡辺 賢一

近年その分布を北に拡大しつつあるトンボがいます。1970 年代以降、わが国南端に位置する南西諸島(沖縄県、鹿児島県)各島で、過去には見られなかった、主に台湾など南方から飛来したと思われる数種のトンボが次々と記録され定着し、分布域を北上させていきました。

なかでも、ベニトンボとアオビタイトンボについては、1980 年代~ 1990 年代にかけ南西諸島を北上し、九州へ上陸し、2000 年代には、ほぼ九州全域に分布を拡大し、2011 年までにベニトンボは三重県、アオビタイトンボは山口県にまで達しています。(図 1, 2)

石垣島を起点として、約 30 年間に距離にして約 1500Km、緯度にして約 10°、年平均気温差にして約 9°C などのギャップを乗り越えての拡大です。今後もこの二種は分布を拡大していく可能性があります。
これら二種の分布を拡大させた主な要因として、渡辺 (2003) は南西諸島で 1970 年代~ 1990 年代に次々とダム、ため池、および河川改修などの工事によって創出された人工的な水環境(新たなニッチ)が彼らの連続発生を可能にし、定着に至ったと考えています。分布拡大の要因を特定することは困難ですが、地球の温暖化に限定することは困難と思われます。


一方、タイワンウチワヤンマは 1950 年頃までは、 九州と四国の南部にしか分布していませんでしたが、1970 年に九州北部、1990 年に紀伊半島南部、2010 年には神奈川県まで分布を拡大しています。(図 3)

青木 (2000) の詳細な調査により、本種の分布拡大は地球の温暖化と密接な関係にあると考えられます。本種もまた、さらに分布を拡大させていくものと思われます。

上記三種に限らず、地球の温暖化や水環境を変化させる各種工事がトンボの生息、分布に影響を及ぼすとの認識を持って、各地で注視していく必要があります。

参考文献

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尾園 暁・川島逸郎・二橋 亮, 2012. ネイチャーガイド日本のトンボ. 531pp., 文一総合出版, 東京
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渡辺賢一, 2012. ベニトンボ,アオビタイトンボおよびタイワンウチワヤンマの分布北上. 2012年度日本トンボ学会山形大会研究発表要旨集: 10